東日本大震災により福島第一原子力発電所から大量の放射性物質が放出され、
その大半は今なお日本の土壌や水中に残留し続けている。
事故以降、国の主導で地上の線量、放射性物質の分布については
航空機を使った調査により(かなり詳細な分布図)が得られているが、
海中、湖中などの水中においては未だその限りではないのが現状である。
そこで我々は完全自立での水中の放射線量測定を目指し、
その技術実証機としてAUV(Autonomous Underwater Vehicle:自立型水中ロボット)WAQUAを制作した。
このページではWAQUAの詳細と、紙面の都合上ポスターに記載できなかった情報の補足をする。
右図は船体を横から見た図である。
画像左の凸面を水中ロボットの前面とし、
前面にカメラ、モーターコントロール基板、パソコンが収まり、
ロボット後方はバッテリーの格納空間となっている。
ロボット前部と後部の間の空間には
ロボットを水中で上下に運動させる際に用いるスラスタ(ダイブスラスタ)
が搭載されており、その空間はほぼ完全に水没する形になっている。
この様に、バッテリーとその他とを分離して配置することで、
万が一バッテリーが発火した場合にも前部に配置した高価な部品を保護することができる。
船体本体は今後の拡張性と加工の容易さから塩ビパイプを採用した。
バッテリーは軽量かつ大容量であるリチウムイオン電池
Z80004S-30
を3並列にして用いている。
しかし、リチウムイオン電池は容量以上の大電流放電など、
ふとしたきっかけで発火することがあり、取扱いに注意を要する。
安全性を考え、鉛蓄電池や、ニッケル水素電池の搭載も視野に入れたが、
電池容量と搭載容積の観点からリチウムイオン電池を選定し、
船体構造によりリチウムイオン電池の欠点を克服する事にした。
スラスタは防水の必要が特に無いと言う事と、
ブラシ寿命の観点からDCブラシレスモータD3548-6790を選定し、
モータードライバにはこのモーターとの使用例の多いTTS-60A
を用いた。
放射線の検出方法として計数効率の良さと、適当な取り回しの容易さ、
そして今後の放射線源の核種弁別のために
沃化ナトリウム(NaI)シンチレータ付き光電子増倍管を用いる方法とした。
光電子増倍管を動作させるためには高い電圧安定度を持った高電圧源が必要となるが、
その高電圧は入手の容易さから、使い捨てカメラのフラッシュ基板を改造した物を使用した。
通常使い捨てカメラのトランスからの出力電圧は200V程度であり、
この電圧では光電子増倍管を動作させるためには不足であるので、
その出力をコッククロフトウォルトン回路で4倍圧整流して使用している。
更に、光電子増倍管からの出力電圧はそのままパソコンに取り込める程の
電圧ではないため、一旦増倍管からの出力をオペアンプを使い増幅し、
最終的にマイコンに信号を入れ、USBの信号形式に変換しパソコンに入力している。
マイコンからは1秒毎に1秒間に放射線が何発入ったかをパソコンに送信し、
パソコン側でそれを受信し、記録する事により、放射線量の記録システムを構築している。
実際に水中で放射線の測定が可能かどうかを確認するために、
校庭に設置した長さ3m、奥行き2m、深さ0.75mの簡易プールに水を張り、
シンチレータを搭載した潜水機でガンマ線の測定を行った。
プールが浅いため、潜水艦は水面ぎりぎりに沈んでいる状態に調整し、
目標のブイを目指して直線的に航行させた。
図中の丸印はブイを、黒四角は、機体本体を、四角は放射性物質を表している。
航行している最中は自作したデータロガーにより自動的にデータを取得し続けた。
プールが狭いために旋回しながら測定することは困難であったため、
直線上のデータを取得した後、ブイを手で30cm移動させ、
潜水機を手でスタートラインに移動させ再度測定する操作を6回行った。
放射線源として、3cm×3cm厚さ1cmの大きさのセシウム含有物を水底に置いた。
また、シンチレータは水底から1cmくらいのところに到達できるように潜水機本体に取り付けた。
結果は図の通りであった。
グラフからも見て取れるが、明らかに線源が有るであろう箇所で
カウンターの計数が最大になっている。
この事から水中での放射線測定が十分現状のシステムで可能で有ることを示している。
また、線源があるであろう箇所から2mも離れれば、その計数は
バックグランドとほぼ同程度であり、
湖中に沈んでいる放射性物質の位置や分布を測定するためには
船上に計測器を置いて計測する方法ではなく、
水中に計測器を沈めて計測する方法を取る方が良い事も分かる。
今までは校庭に設置したプールや、JAMSTECのプールなど、人工的に整えられた環境でのみテストをしてきたが、
WAQUAの最終目標の水中は、決してそのような人工的に用意された水中環境ではない。
そこで実際に学校近くの川にWAQUAを持ち込み、実環境でWAQUAの船体に問題は無いか、
画像認識を用いた自律航行は実環境で使えるか、WAQUAは実際に調査が可能か、のテストを行った。
最初のテストではWAQUAに赤い標的を認識させ、それに向かって自律航行し、
標的に到達し次第ダイブスラスタで浮上するというプログラムを組んだ。
その結果がこの動画である。
これによりWAQUAは濁った水中でも、ある程度まで近づけなければならないが
カメラを使った自律航行が可能であることが実証された。
次に、先のプログラムから、「標的に到着次第浮上する」という部分を取り払い、
赤い標的を認識し、追いかけ続けるというプログラムを組んで実行した。
WAQUAはやはりある程度まで近づかなければ標的を認識しないが、
一度認識してしまえばその標的を追跡する事ができた。
テスト実施後WAQUAを回収し、WAQUAの動作をWAQUA側から見た動画がこの動画である。
カメラのフォーカスがアクリル窓に合っているためにWAQUAから
遠くの標的が見えづらく、標的近くまで接近しなければ標的を認識できていないが、
一度標的を発見すれば確実に自立制御を行い、標的まで航行している事が分かる。
以上のテストを通してWAQUAには致命的な損傷は無く、
実際にフィールドに出して観測を行わせることが可能な機体である事が実証された。